晴々 haruharu

今年の目標は「できる限り、健康になる」

わたしはなぜ推しの結婚で泣いたのか、あるいは結婚してもファンを失いたくない芸能人のあなたへ

これからわたしが書くことは、現実に起きたことではありますが、推しは「推し」として、実名を出さずに語りますので、もしもあなたが、誰のことを言っているのか気付いたとしても、そのお名前を口にするのはお控えください。



それは2015年9月下旬のことでした。

わたしはクライアントのお宅におり、リビングのテレビが付けっ放しの状態で、保険の提案をしておりました。そのときテレビで流れていたのは、関西弁のアナウンサーが司会の人気ワイドショー番組でした。
保険の提案時には、一旦「沈黙」を置くことで、クライアントに対し「何らかの返事をしなければならない」というゆるやかな圧力をかけることがあり……テレビがついているのは、この作戦にはマイナスでしかなかったものの、最初に「消して欲しい」と言い忘れてしまったので、仕方なくそのままでした。

そのテレビが、唐突に教えてくれたんです。
推しが結婚したって。

ちょうど、クライアントとの会話がなかった沈黙のタイミング。驚いたわたしは思わずテレビの方向を向きました。
クライアントも驚いていました。推しが「独身貴族的なイメージ」のある人だったからだと思います。
明らかに気が動転している様子のわたしを見て、クライアントは「ファンなんですか!?」と尋ね、気を利かせたつもりなのか、そばにあったリモコンで、テレビの音量を上げてくれました。

その後わたしが事務所までどう帰ったか、未だにわかっていません。気が付いたら事務所の中におり、後輩の胸で泣いていました。
契約は取れませんでした。
それどころではなかったので。

推しは発表前日「ある不義理」をした

このときわたしがなぜこれほどまでに動揺したのか。わたしはその理由をハッキリと説明できます。

「前日、何も言っていなかったから」


推しには元々、ライブのMCで「重大発表」と煽り、「ケ……ケ……」と「結婚発表をする」ようなフリをして、我々をギャーギャー言わせ、その反応を面白がるという、今思えばちょっと悪趣味な習慣があり、この流れを見ていたわたしは、「結婚発表はライブで行われる」と勝手なイメージを抱いていました。
少なくとも、ファンに向かって、いちばん最初に説明をしてくれるのではないか、直接おめでとうと言わせてくれるのではないか、と思っていました。

また、推しの結婚発表の直前である同年9月11日に、某男性アイドルグループの某メンバーが、元テレビ局社員の一般女性の方とのご結婚を、素敵なメッセージカードを郵送する方法でファンに知らせた、いわば「とても理想的な前例」とも言える出来事があり、これを見たわたしは、「推しもその時にはきっと、この方のように、わたしたちに真っ先に知らせてくれるはず」と、無邪気に信じていたのです……。


推しは結婚発表の前日、当時毎月恒例だった、ファンクラブ会員限定のインターネット番組の生配信を行っていました。
このインターネット番組は、「推し本人のファンクラブ会員のみ」に向けたものであり、番組の尺やスポンサー等の制作上の都合や、共演者への配慮などはほぼ要らず、推しが推しの想いをそのままに語れる、絶好の場だったはずでした。

また、発表当日の15時には、各社へ送られたFAXでの結婚発表と同時に、公式サイトにてファンクラブ会員向けのロングメッセージも掲載されたのですが、公式サイトがアクセス殺到でたいへん混雑し、長時間にわたり閲覧できない状態でした。
さらに、「ファンクラブ会員限定」であったはずのロングメッセージの内容が、発表翌日の朝のテレビ番組にて一部始終放送され、アナウンサーの声で代読されているのを目にして、脱力したことをよく覚えています。

なぜわたしたちに、直接何も言ってくれなかったのだろう?言える場になりそうなものもあったのに。不義理ではないか、信じてもらえなかったのか、と思ってしまいました。

推しが何を守りたいかが透けて見えた

前述の通り、推しの結婚発表は、「15時ちょうど」に行われました。
これは日本の株式市場の取引が終了する時刻です。

推しの所属事務所は、芸能事務所では割と珍しい株式会社であり、自社株を持つアーティストや社員も多くいます。
(公開されている持ち株比率を見ればわかります)

これが推し自身の意思なのかどうかはわかりかねますが、15時という発表時間の選択は、「自社の株価下落を最小限にするための社内政治的な判断」だったのではないかと思います。
この時点で、推しが何を守りたかったのかが、うっすら透けて見えました。

推しはファンの神経を逆撫でした

推しは週末に1時間枠のラジオの冠番組を持っており、これが結婚発表後初の公の場でした。
その場で推しは、自らの結婚が、所属事務所でも5〜11名程度の少人数しか知らない、超重要な機密事項だった旨を、「ゴレンジャー」や「オーシャンズ11」という言葉を用いて語っていて、この日の放送の別の話題の中でも、自らの口の堅さを「○○(所属事務所)のハマグリ」と称しています。

この発言は、ラジオで共演する放送作家フリーアナウンサーなどの「近しい共演者」にも、この事実を事前には一切知らせていなかったことを暗に示しており、「共演者にも言っていないことを、先にファンに言うわけないだろう」と、どこか突き放されたような気持ちになってしまいました。


この頃から、インターネット上で、推しが以前公の場で、ファンのことを「棒にたかるアリ」や「ドル箱」などと発言したことが、悪い意味で蒸し返されてしまい、発表直後のラジオでの発言と合わせて、一部のファンの中で、「推しはファンを軽視している」という論調が完全に出来上がってしまいました。

「複雑だけれど、結婚を祝おう」と気持ちを切り替えたり、「前向きになろう」と必死にもがくファンに対して、自らの怒りや悲しみの矛先を向けて攻撃する方や、逆に、さまざまな理由から、複雑な心境で、推しの結婚を祝えそうにない状況にあるファンを、「ならファンやめれば?」と攻撃する方が、この時点でグッと増えました。

わたしには、結婚自体よりもこのことの方がショックでした。
前日までみんなほがらかに推しを応援していた仲間だったはずなのに。みんな推しのことが好きだったはずなのに。むしろ、好きだからこそ、こうなってしまったのかもしれません。
さながら、ファン同士の「内戦」のようでした。

おわりに

わたしはこの件でもファンを辞めませんでしたが、未だに複雑な思いがあります。
推しは決して「結婚」のみでファンを失ったわけではないのです。「推し本人の発言に失望したファン」がいなくなりました。
とどまっているファンの中にも、他のファンや、推し自体への目線が、大きく変わってしまった人がいるのも事実です。


推しは初手を誤ってしまったがために、一部ファンの中に「プライベートを見せないでほしい」という強いアレルギーを生み出してしまい、「良き夫・良きパパ」としてのイメージで自らを売り出す新たな販路を、自らの手で失いました。

推しが推しらしく活動できること、推しのご家族が安全に生活できることを、何よりも強く願っておりますが、現状、時の流れに逆らうことはできませんから、わたしはいつまでも、このときの出来事を忘れられないのではないかなと思っています。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。