現役保険屋さんが本気出して「ジャイアン保険」を考えてみた
昨日UPしたブログ記事を自分で読み返しながら、アニメ・ドラえもんの中で描かれていたジャイアン保険を、「本当の保険商品として成立させるためにはどうすればいいか」と考えてみました。
これ、保険制度のしくみの説明になるので、記事にしてみようと思います。
生命保険にご加入中のあなたは、ご自分の保険がどんなものであるかを思い出しながら読んでみてください。
※このブログ記事では、ジャイアン保険が生命保険であると仮定して説明します。
①「ジャイアンに殴られる確率」を求める
まず、保険というのは、「同じくらいの危険度を持つ集団」を作り出すことが必要不可欠です。
同じ年代・同じ性別・同じくらいの危険度のお仕事をしている集団を集めなければなりません。
このとき、持病がある人や、命に関わるようなあぶない業務を生業にしている人など、「危険度が他の人より高い人」は、そうでない人と同じ条件の保険には入れません。
そうでない人よりも、保険金を受け取る可能性が高いからです。
そういう場合には、保険料を割増したり、持病の部分だけは、症状が悪化しても保険金が下りないようにする*1などの「特別条件」が付けられたり、引受基準を緩和した保険商品*2という、「危険度高めな集団」向けの保険に入ることで、保障を持てます。
そして、集められた集団の中で、保険金の受け取りが発生するトラブル=「保険事故」が起きる確率がどれくらいなのかを計算します。
たとえば、サイコロは1回引いただけでは何が出るかはわかりませんが、何万回、何億回と引いてみると、大体どの目も6分の1くらいの確率で出ますよね。
それと同じように、不慮の事故や突然の大病など、個々の事象を見ると法則性など感じられないような出来事でも、何千、何万と事象を集めると、そこにはある程度の法則性があるのです。
これを「
なので、「ジャイアン保険」に対しても、ジャイアンに暴力を振るわれる可能性がだいたい同じくらいの同級生の集団を集め、「いつ、どんなときにジャイアンに暴力を振るわれたか」の情報を数多く集めることで、ジャイアン保険の保険金受け取りが発生する確率を求めなければなりません。
「ジャイアンが殴ってくる確率」がわかれば、保険会社側が、保険金を支払う機会がどれくらいあって、総額がいくらくらいになるかを知ることができるからです。
なぜこの金額を計算する必要があるかというと、保険商品は、保険会社による保険金のお支払い総額と、すべての保険契約者が保険会社に支払う保険料の総額が、相等しくなるように作られなければならないからです。
これを「
②保険料を収納し、適切に管理・運用する
契約者が契約内容や保険料に納得したら、いざ契約!
しかしながら、保険商品は複雑なものであり、保険金が受け取れる場合とそうでない場合など、さまざまな決まりがあるため、保険会社と保険契約者が互いに守るべき義務や、受けられる権利を定めた「
約款とは別に、「契約の概要」「注意喚起情報」という、保険契約上極めて重要な内容を記載した文面も、あわせて契約者にお渡しします。
ジャイアン襲撃の確率を求めて保険料を算出し、ジャイアンに備えたい人々から保険料を集めた保険会社は、「何らかの理由で、計算上の回数以上にジャイアンが殴ってくる」不測の事態に備え、保険金を支払うための余力を持つ必要があります。
現実の保険会社では、この余力のことを、「ソルベンシー・マージン比率」という名前で呼んでいて、この比率が200%以下になってしまった保険会社は、国から是正されます。
逆に、「何らかの理由で、計算上の回数よりもジャイアンが殴ってこなかったら、保険をかけるのは損ではないか」と思いませんか?
のび太はここで失敗してしまいましたよね。
ジャイアン保険が「有配当保険」である場合、想定していた襲撃率よりも実際のジャイアンの襲撃が少なく、保険会社が当初の想定ほど保険金を支払わずに済んだ場合、契約者は「配当金」として、その余剰の一部を受け取ることが可能です。
仮にジャイアン保険が共済だった場合、戻ってくるお金の名前は配当金ではなく、「
また、現実の保険契約は長期間に渡ることが多いため、保険会社は公共性・安全性の高い方法で資産を運用し、万が一の際に備えています。
③保険が安定的に継続するように努める
一般的に保険というのは、契約が長期に渡ることが多いため、契約している最中に、契約者自身の状況に変化が起きることは避けられません。
たとえば、ジャイアン保険であれば、クラス替えでジャイアンとクラスが別になるとか、ジャイアンの家の近所から引越し、ジャイアンと遭遇する回数が格段に減るということも起こり得ますよね。
そういう場合なら、「解約」でもいいと思いますが、「あんしん!ジャイアン保険」のオチの部分のように、保険料が支払いできなくなったという理由で保険を解約してしまった後に保険事故が起きて、保険金が一切受け取れなかった……という事態は、保険屋さんとしても、訪れてほしくないです。
このように、生命保険の保険料負担を重く感じた場合、現実には、「減額」や「払済保険」「延長定期保険」といって、保険料の負担を減らす方法があります。
一切の保障をなくしてしまう解約ではなく、最低限の保障を継続しつつ、保険料負担を減らす方法です。
損害保険でも、被保険自動車を毎日の通勤に使っていたけれど、リモートワークで通勤の必要がなくなり、乗る機会が格段に減った……などという場合は、車両の用途を「通勤・通学」から「日常・レジャー」に変更することで保険料負担を軽くできます*3。
逆に、あなたが小学生ながらに家事を手伝うことになったとかで、ジャイアンからの暴力を受けて長期間働けなくなってしまうと、困ってしまうご家族がいる、などの場合は、万一の際、現状受け取れる保険金よりも、もっと多くの保険金を受け取りたいと思うでしょう。
現実でしたら、ご就職やご結婚、お子さまのご誕生や、マイホームの建設などですね。
このような場合、現実の生命保険では、「契約転換制度」や「保障見直し制度」、または全く別の保険に新たに追加で加入する「追加契約」などで、保障を増やす方法があります。
保険は大きくて長い。だからこそ
前述のとおり、契約者の環境に変化が訪れると、保険は時に、保障をかけ過ぎになったり、足りなくなったりしてしまうもの。
保険が、不安の大きさに対して過不足なくかけられ、適切な大きさの安心をお届けできることが、保険屋さんがあなたにできるお仕事です。
つまり、保険屋さんは、保険を売ったら終わりというわけではありません。
保険は、その契約が継続し続ける限り、保険会社と契約者それぞれに権利と義務が存在するからです。
そのため、あなたの変化を敏感にキャッチするためにも、1年間に一度も来ないような保険屋さんは、ちょっと信用ならないな〜とわたしは思ってしまいます。
ただ……
やたらとグイグイくる保険屋さんって、みんな苦手ですよね。
わたしも正直苦手でした。
でも、それが保険屋さんのお仕事なんです。
たとえば、あなたにお子さんが生まれたことを知らずにいて、保障が足りなくなったまま、あなたや、あなたのご家族に万が一のことが起きてしまったら。
保険屋さんは悔やみます。
保障が足りなくなっていることを知った上で、あなたがご自身の判断で、追加契約や保障の見直しを断るのは、あなたの自由です。
でも、保険屋さんがぜんぜん来なかったことによって、あなたが保障が足りなくなっていることに気付かずに過ごし、そのうえで万が一のことが起きてしまったとなっては、保険屋さんの名折れです。
せっかくかけて頂いた保険が古くなっていたり、足りなくなっていたり、むしろかけ過ぎで、保険料のお支払いが大変になっていたりはしないか。
保険屋さんは目を光らせて、あなたに会いにきます。
「うーわ、また来たよ。うっとうしいな」と思う日がきっとあると思います。
でも、こっちも仕事なんです。許してください。
ここまで読んでみて頂いて、あなたはご自分の保険がどんなものだったか思い出せましたか?
保険証券がどこにあるかもわからない???それは困ります!
あなたは何が起きたら保険金が受け取れるのか、ご自分でわからないということですから。どうかいますぐ探してください!!
もうしょうがないくらい証券がどこかわからなく、どこの保険会社に入ってるのかくらいはわかるようでしたら、「私の保険てどんなんでしたっけ」と問い合わせてみてください。保険屋さんは可及的速やかに、おそらく何らかの粗品を持って伺います。よろしくお願いします。